演習 線形代数キャンパス・ゼミ 改訂8 馬場 敬之,高杉 豊
線形代数は編入試験の数学でよく扱われる分野ですが、行列の階数や対角化といった計算問題で失点する受験生が多いです。本記事では、『演習 線形代数キャンパス・ゼミ 改訂8』が編入対策でどのように活用できるかをご説明します。本書は解説を読ませる講義書ではなく、手を動かして解き切る力を付けるための演習書です。そのため、いつ・どの段階で開くかによって効き方が大きく変わります。
この本の位置づけ
本書は、線形代数の基礎から応用まで段階的に学べる演習書で、計算力を高めたい受験生向けです。教科書で概念を理解した後、実際の問題演習を通じて定着させるのに適しています。 他の線形代数参考書と異なり、本書は「演習」に特化しているため、多数の問題を反復することで、行列の階数計算や対角化の手順を確実にできます。証明問題よりも、計算問題の精度向上を優先したい受験生に向いています。
いつどのタイミングの編入受験生におすすめか
線形代数の基本概念(行列の演算、連立方程式の解法)を理解した後、遅くとも編入試験の1年前から取り組むことをお勧めします。この時期から演習を始めることで、複雑な計算問題にも自信を持って対応できるようになります。 もし基礎がまだ定着していない段階で使用すると、解答を写すだけになりやすく、効果が限定的です。一方、試験直前に初めて使い始めると、十分な練習量が確保できない可能性があります。
編入試験で線形代数はどう問われるか
線形代数は「線形代数」という科目名で単独に課されるとは限りません。たとえば岡山大学工学部も東京科学大学も、公表されている試験科目は「数学」です。要項で確かめるべきなのは線形代数という語ではなく、数学が課されるかどうかと、その問われ方です。
岡山大学工学部の第3年次編入学(2027年度学生募集要項)では、一般入試の試験科目がコースごとに分かれています。数学が筆記試験に入るのは機械工学コース、ロボティクス・知能システムコース、情報工学コース、数理データサイエンスコースです。都市環境創成コースと環境マネジメントコースは筆記試験がなく面接だけ、ネットワーク工学コースとエネルギー・エレクトロニクスコースは面接の中で英語・数学・物理学が口述で問われます。同学部は第3年次編入学試験のページで一部コースの筆記試験問題を公開しているので、志望コースでの問われ方はご自身で確認してください。
東京科学大学(2024年10月1日に東京工業大学と東京医科歯科大学が統合して発足した大学です)の編入学試験(一般入試)では、学力検査科目が数学・物理・化学と公表されています。過去問題はWebでは公開されておらず、過去3年分が配付される形です。請求の方法は編入学試験のページに案内があります。
筆記で数学が課されるなら、本書のように答案を書き切る演習が直接効きます。口述で問われるなら、計算できるだけでは足りず、選んだ手順を言葉で説明できることが要ります。志望校の形式が分かってから本書の使い方を決めてください。
なお岡山大学工学部の同じ要項では、編入学後の既修得単位の認定について、対象となる授業科目に「線形代数(2単位)」が挙がっています。単位認定試験の出題範囲や実施方法は入学確約者へ2026年12月中旬に通知されるとされており、線形代数は合格後にもう一度向き合う科目になります。
ターゲット大学と対策できるテーマ
本書で扱う論点と出題内容が重なる大学・学部をまとめました。「頻出テーマ」はその学部の過去問で繰り返し問われている論点のうち、本書で扱っているものです。志望校がこの一覧に無くても、数学が課されるなら本書を使う余地はあります。
お茶の水女子大学理学部
数学
頻出テーマサラスの公式、ユニタリ行列、合成写像、エルミート行列、行列の対角化、直交化
本書の該当ページサラスの公式(p.46)、ユニタリ行列(p.149)、合成写像(p.122)、エルミート行列(p.190)
数学
頻出テーマ合成写像、正射影、正規直交化、行列の対角化、単位ベクトル、正規直交基底
本書の該当ページ合成写像(p.122)、正射影(p.6)、正規直交化(p.162)、行列の対角化(p.191)
数学物理
頻出テーマシュミットの正規直交化法、変換行列、行列の対角化、拡大係数行列、正規直交基底、逆行列
本書の該当ページシュミットの正規直交化法(p.162)、変換行列(p.154)、行列の対角化(p.191)、拡大係数行列(p.90)
秋田大学理工学部
数学
頻出テーマ行列の対角化、単位ベクトル、法線ベクトル、逆行列、対角化
本書の該当ページ行列の対角化(p.191)、単位ベクトル(p.6)、法線ベクトル(p.14)、逆行列(p.72)
数学
頻出テーマ行列の対角化、正規直交基底、法線ベクトル、逆行列、対角化
本書の該当ページ行列の対角化(p.191)、正規直交基底(p.144)、法線ベクトル(p.14)、逆行列(p.72)
※志望校の最新の募集要項と過去問は必ずご自身でご確認ください。
使い方
本書は通読するのではなく、単元ごとに取り組みます。まず行列の階数、複素行列、対角化、正規化など、志望大学の過去問に出題された単元から優先的に演習を始めてください。 各問題を解く際は、計算プロセスを省略せずノートに書き、答え合わせ時に自分の計算経路を確認します。同じ単元の問題を3周以上繰り返し、計算ミスを減らすことが重要です。 本書の問題が確実に解けるようになった後、志望大学の過去問に進み、本書で学んだ手法がどのように出題されるかを確認する往復学習が効果的です。
同じ線形代数の本との使い分け
本書はマセマ出版社「キャンパス・ゼミ」シリーズの演習編です。定義や定理の説明そのものは同シリーズの講義編が担っているため、用語の意味がまだ固まっていない段階で本書から入ると、解答を書き写すだけになりやすくなります。逆に、編入試験そのものの出題形式に慣れる段階では、編入試験向けに編まれた問題集と組み合わせることになります。次の記事も合わせてご覧ください。
線形代数キャンパス・ゼミ同じシリーズの講義編。定義や定理の説明はこちらが担当する
編入の線形代数徹底研究編入試験向けに編まれた問題集。基本事項の整理と問題演習
大学編入試験問題数学 徹底演習微分積分・線形代数・応用数学・確率をまとめて扱う一冊
編入数学の参考書ルート微分積分と線形代数を何からどの順で進めるかの全体像
注意点
本書は改訂8版ですが、線形代数の基礎理論は不変です。ただし、編入試験の出題傾向は年々変わるため、本書の問題だけでなく、志望大学の過去5年分の問題との照合を必ず行ってください。 本書は計算演習に特化しているため、行列式の理論的背景や固有値の幾何学的意味など、証明を求める問題には限定的です。志望大学の過去問で証明問題が頻出する場合は、補足的に教科書や別の参考書と組み合わせてください。 また、複素行列や正規化など、大学によって出題比率が異なるため、志望先の過去問で出題実績を確認した上で、学習時間配分を調整することをお勧めします。
購入するときは版数もご確認ください。マセマ出版社は2026年6月に『演習 線形代数キャンパス・ゼミ 改訂10』の発売を案内しています。この記事が対象としているのは改訂8です。中古で買う場合は版を取り違えないよう、書影ではなく奥付や商品ページの表記で確かめてください。




