大学編入 化学 参考書ルート|有機・物理化学・無機・分析をどこまでやるか
化学は、編入試験の科目のなかでもっとも「志望校しだい」で必要な範囲が変わる科目です。
理由は単純で、化学が4つの分野に分かれているからです。有機化学、物理化学、無機化学、分析化学。この4つは使う本も勉強のしかたも別物で、全部やろうとすると1年では終わりません。
そして実際の入試を見ると、4分野を均等に出す大学はほとんどありません。「物理化学と有機化学」「無機化学と有機化学から1科目選択」「基礎物理化学・基礎有機化学・基礎無機化学」——大学ごとに、出る分野がはっきり決まっています。
この記事では、志望校の範囲の見つけ方、分野ごとの標準ルートと難関大ルート、そしてどこから手をつけるかを整理します。
この記事で分かること
- 志望校がどの分野を出すかを、出願前に確かめる方法
- 有機・物理化学・無機・分析それぞれの、標準ルートと難関大ルート
- 高校化学に戻るべきかどうかの判断
- 4分野のうち、どれから手をつけるか
- 化学を課している大学と、その出題範囲
編入試験は大学ごとに出願資格も科目も違います。いまの学年・在籍区分で受けられる大学がどこかは、条件を突き合わせて初めて分かります。
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2つのルートの分かれ目は、演習書のレベルにあります。合格した人が使った教材を見ると、「基本から大学院入試まで」と副題に書かれた演習書を使っているのは難関大を受けた人に偏ります。
標準ルートは、要点書で全体をつかんで基礎的な演習を1冊仕上げるところまで。難関大ルートは、そこから教科書(マクマリー、アトキンスなど)と大学院入試レベルの演習書へ進みます。
まず、志望校がどの分野を出すか
本を買う前にここを確かめてください。募集要項の「試験科目」の欄に、分野名まで書いてある大学が少なくありません。
| 大学・学部 | 要項に書かれている化学の範囲 |
|---|---|
| 名古屋工業大学 工学部 | 基礎物理化学・基礎有機化学・基礎無機化学(物理と化学から選択) |
| 関西大学 化学生命工学部 | コースにより物理化学+有機化学、または物理化学+固体物理 |
| 東京農業大学 応用生物科学部 | 農芸化学科は無機化学/分析化学/有機化学に関する内容 |
| 宮崎大学 工学部 | 化学生命プログラムは化学一般(主に物理化学と有機化学) |
| 近畿大学 産業理工学部 | 生物環境化学科は無機化学、有機化学、生物科学・生物学から1科目選択(出願時に選択) |
| 東京海洋大学 海洋生命科学部 | 理科の選択科目として基礎化学・有機化学 |
出典: 各大学が公表している募集要項および入試情報(編入試験ナビの収録データ)。年度・学科により変わります。必ず志望する学科の最新の募集要項で確認してください。
この一覧から読み取れることが2つあります。
- 物理化学と有機化学が中核です。この2分野はほとんどの大学で出ます。迷ったらここから始めてください
- 無機化学と分析化学は、出す大学が限られます。特に分析化学は、農学系・薬学系など一部の学部に集中しています
範囲が書かれていない大学もあります。その場合は「化学」とだけ書かれていることが多く、過去問を見るか、大学に問い合わせるのが確実です。
高校化学に戻るかどうか
大学レベルの本に入る前に、高校化学の穴を埋めるべきかを判断してください。判断の基準は1つです。
周期表の族ごとの性質、酸と塩基、酸化還元、有機化合物の官能基と命名——これらを説明できるか。ここが曖昧なまま大学の教科書に入ると、書いてあることは追えても、なぜそうなるかがつかめません。
特に無機化学は、高校範囲の知識がそのまま土台になります。大学の無機化学は「なぜその性質になるか」を電子配置から説明する科目なので、暗記していた事実を理屈で結び直す作業になります。前提となる事実を知らないと、結び直すものがありません。
戻るのは、穴のある分野だけで十分です。全分野をやり直すと時間が足りません。
有機化学:反応機構を説明できるまで
ほとんどの大学で出る分野です。そして暗記でいちばん失敗しやすい分野でもあります。
問われるのは、構造式、立体化学、命名法(IUPAC)、そして反応機構です。反応の名前と生成物を覚えるだけでは、初めて見る化合物が出た瞬間に手が止まります。電子がどう動くかで説明できる状態を目標にしてください。
| ルート | どこまでやるか |
|---|---|
| 標準ルート | 要点書で全体像をつかみ、基礎的な演習を1冊。単位が取れるシリーズやベーシック系の教科書で反応の型を押さえ、基礎有機化学演習で手を動かすところまで。電子の動きに苦手意識があるなら、そこに特化した本を1冊挟むと後が楽になります |
| 難関大ルート | 教科書と、大学院入試レベルの演習書へ。マクマリーやブルースを軸に据え、「基本から大学院入試まで」型の演習書で反応機構を書く練習を積みます。合成経路を自分で組み立てる問題まで想定してください |
標準ルートで使う本です。
難関大ルートで足す本です。
マクマリーやブルースは分厚く、最初から通読しようとすると挫折します。要点書で全体をつかんでから、辞書として引く使い方に切り替えるのが現実的です。
難関大ルートに進む人でも、いきなり大学院入試レベルの演習書に入らないでください。解説が前提知識を要求してくるため、手が止まります。
物理化学:計算と熱力学が中心
有機化学と並ぶ中核の分野です。性格はまったく違います。
物理化学は計算する科目です。熱力学の第1法則・第2法則、化学平衡、反応速度論、相平衡——数式を立てて解く場面が多く、数学(特に微分積分)が道具として要ります。
| ルート | どこまでやるか |
|---|---|
| 標準ルート | 要点書で熱力学と化学平衡の骨格をつかむ。単位が取れるシリーズや、標準的な教科書で全体を1周し、章末問題を解けるところまで |
| 難関大ルート | アトキンスを辞書に置き、熱力学の演習書で計算量を積む。量子化学まで範囲に入る大学では、その分野の教科書を足します |
標準ルートで使う本です。
難関大ルートで足す本です。
物理化学でつまずく人の多くは、化学ではなく数学で止まっています。偏微分、常微分方程式、対数の扱い——これらが怪しいと、式変形の途中で追えなくなります。
物理化学が範囲に入っているなら、数学の基礎を並行して確認してください。理系科目全体の積み上げ方は理系の編入試験の参考書で整理しています。
無機化学:出す大学は限られる
無機化学を課す大学は、有機・物理化学より少なくなります。ただし出る大学では、しっかり配点があります。
大学の無機化学で問われるのは、電子配置、混成軌道、分子軌道、結晶構造、配位化学といった内容です。高校で覚えた「性質」を、電子の配置から説明する科目だと考えてください。
標準ルートは、教科書を1冊通して、章末問題を解けるところまで。難関大ルートでは、「基本から大学院入試まで」型の演習書で計算問題と説明問題を積みます。
分析化学:範囲に入るか先に確かめる
4分野のなかで、出題される大学がもっとも限られる分野です。農学系や薬学系の一部の学科で範囲に含まれます。
範囲に入っていないなら、手をつける必要はありません。逆に入っているなら、滴定・pH計算・緩衝液・溶解度積といった計算の型が決まっている領域なので、対策の効率は悪くありません。
化学を課している大学の例
それぞれの記事で、範囲・配点・出題の形式を確認できます。
- 難関大ルートの目安——筑波大学理工学群(化学類は化学)、東京科学大学物質理工学院、東京科学大学生命理工学院、横浜国立大学理工学部、金沢大学理工学域、神戸大学理学部(化学科は化学)
- 標準ルートの目安——佐賀大学理工学部、高知大学理工学部、室蘭工業大学理工学部、島根大学総合理工学部、京都工芸繊維大学工芸科学部
- 口頭試問で問われる形式——九州大学工学部や東京理科大学理学部第二部のように、筆記ではなく口頭で化学の基礎を問う大学もあります。この場合は「解ける」だけでなく「説明できる」ことが要ります
同じ大学でも学科・コースによって科目が違います。ここに挙げたのは目安です。必ず志望する学科の募集要項で確認してください。
どの順で進めるか
秋(10月・11月)に試験がある前提での目安です。
-
試験の1年前
志望校の範囲を確定させる。4分野のどれが出るかで、これから買う本が決まります。過去問が手に入るなら、この時点で一度目を通してください
-
10〜8か月前
高校化学の穴を埋める。穴のある分野だけで十分です。並行して、範囲に入っている分野の要点書を1周
-
8〜5か月前
分野ごとに教科書を通す。有機は反応機構、物理化学は熱力学が山場です。章末問題を解きながら進めてください
-
5〜3か月前
演習書に入る。難関大を狙うなら、ここで大学院入試レベルの演習書へ。標準ルートは基礎的な演習書を仕上げます
-
3か月前〜
過去問。時間を計り、途中式まで書く形で解いてください
4分野すべてが範囲の大学を受ける場合、この日程では足りません。その場合は1年半を見込むか、配点の大きい分野に絞るかの判断が要ります。
迷ったら物理化学と有機化学からです。この2つはほとんどの大学で出ます。
やってはいけない3つの使い方
- 範囲を確かめずに4分野そろえる。化学でいちばん多い失敗です。出ない分野に使った時間は、そのまま出る分野の演習量を削ります
- 反応を暗記で乗り切ろうとする。有機化学は反応の数が多く、暗記では追いつきません。電子の動きで説明できる形にしてください
- 物理化学を「化学」だと思って数学を避ける。物理化学は計算科目です。数学でつまずいているのに、化学の本を読み直しても解決しません
化学を独学で進めるときに気をつけること
化学を独学で進めるときは、分野ごとに必要な進め方が違うことを先に知っておいてください。同じ「化学」でも、有機・物理化学・無機で詰まり方がまったく違います。
有機化学は、独学でもっとも差が出る分野です。反応の暗記に走ると量に押し潰されますが、電子の動きで説明できるようになると一気に整理されます。質問できる相手がいないぶん、反応機構の解説が厚い本を選んでください。「なぜこの位置に付くのか」が書かれていない本は、独学では使いにくくなります。
物理化学は、数式で詰まる分野です。熱力学の式変形が追えないときは、化学の本ではなく数学(微分積分)に戻るのが近道です。式の意味が取れないまま先へ進んでも、応用問題で必ず止まります。
無機化学は、独学でいちばん効率よく進む分野です。覚える範囲がはっきりしているため、志望校が出すと分かっているなら、短期間で得点源にできます。逆に出題されない大学を受けるなら、手を出す必要はありません。
共通して言えるのは、過去問を早い段階で1年分解くことです。独学では「どこまでやればよいか」の基準を自分で作るしかありません。過去問はその基準になります。
あとは、いまの自分の位置から何を先にやるかです。志望校と現在の状況をうかがったうえで、順番を整理します。
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まとめ
- 化学は4分野に分かれ、志望校がどれを出すかで必要な本が変わります。買う前に範囲を確かめてください
- 物理化学と有機化学が中核です。迷ったらここから始めてください
- 無機化学と分析化学は、出す大学が限られます
- 有機化学は反応機構を電子の動きで説明できるところまで。暗記では初見の化合物に対応できません
- 物理化学は計算科目です。数学の基礎を並行して確認してください
- 難関大ルートの目印は「基本から大学院入試まで」型の演習書。標準ルートの人が最初から手を出すと止まります
理系科目全体の積み上げ方は理系の編入試験の参考書、出願の段取りは編入の出願手続きとスケジュールにまとめています。化学を課す学部の一覧は理学部編入|実施大学一覧・難易度ランキングや工学部編入|実施大学一覧・難易度ランキングから確認できます。
よくある質問
編入試験の化学では、4分野すべてを勉強する必要がありますか?
必要ありません。有機化学・物理化学・無機化学・分析化学の4分野を均等に出す大学はほとんどなく、多くは範囲が決まっています。募集要項の試験科目の欄に分野名まで書かれている大学もあり、たとえば基礎物理化学・基礎有機化学・基礎無機化学と明示する大学や、無機化学と有機化学から1科目を出願時に選択させる大学があります。まず志望校の範囲を確かめてください。出ない分野に使った時間は、そのまま出る分野の演習量を削ることになります。年度や学科により変わるため、必ず最新の募集要項で確認してください。
どの分野から手をつければよいですか?
迷ったら物理化学と有機化学からです。この2分野はほとんどの大学で出題されます。無機化学と分析化学は出す大学が限られ、特に分析化学は農学系や薬学系の一部の学科に集中しています。範囲が確定していない段階で勉強を始めるなら、物理化学と有機化学に絞るのが無駄になりにくい選択です。範囲が分かった時点で、無機や分析を足すかどうかを判断してください。
高校化学に戻る必要はありますか?
周期表の族ごとの性質、酸と塩基、酸化還元、有機化合物の官能基と命名を説明できるかどうかが判断の基準です。ここが曖昧なまま大学の教科書に入ると、書いてあることは追えても、なぜそうなるかがつかめません。特に無機化学は高校範囲の知識がそのまま土台になります。大学の無機化学は「なぜその性質になるか」を電子配置から説明する科目なので、暗記していた事実を理屈で結び直す作業になり、前提となる事実を知らないと結び直すものがありません。ただし戻るのは穴のある分野だけで十分です。
有機化学はどこまでやればよいですか?
反応機構を電子の動きで説明できるところまでです。問われるのは構造式、立体化学、命名法、そして反応機構で、反応の名前と生成物を覚えるだけでは初めて見る化合物が出た瞬間に手が止まります。標準ルートは要点書で全体像をつかみ、基礎的な演習書を1冊仕上げるところまで。難関大ルートではマクマリーやブルースなどの教科書を軸に据え、「基本から大学院入試まで」型の演習書で反応機構を書く練習を積み、合成経路を自分で組み立てる問題まで想定します。
物理化学が苦手です。何から直せばよいですか?
数学を確認してください。物理化学でつまずく人の多くは、化学ではなく数学で止まっています。熱力学の第1法則・第2法則、化学平衡、反応速度論、相平衡では数式を立てて解く場面が多く、偏微分や常微分方程式、対数の扱いが怪しいと式変形の途中で追えなくなります。化学の本を読み直しても解決しないので、物理化学が範囲に入っているなら数学の基礎を並行して確認してください。標準ルートは要点書で熱力学と化学平衡の骨格をつかむところまで、難関大ルートではアトキンスを辞書に置き熱力学の演習書で計算量を積みます。
難関大と標準の分かれ目はどこですか?
演習書のレベルです。合格した人が使った教材を見ると、「基本から大学院入試まで」と副題に書かれた演習書を使っているのは難関大を受けた人に偏ります。標準ルートは要点書で全体をつかんで基礎的な演習を1冊仕上げるところまで、難関大ルートはそこから教科書と大学院入試レベルの演習書へ進みます。ただし標準ルートの人が最初から大学院入試レベルの演習書に手を出すと、解説が前提知識を要求してくるため止まります。順序としては要点書で全体をつかんでから入るのが確実です。
4分野すべてが範囲の大学を受けます。どれくらい期間が要りますか?
秋に試験がある前提で1年では足りない可能性が高く、1年半を見込むか、配点の大きい分野に絞るかの判断が要ります。標準的な進め方は、試験の1年前に志望校の範囲を確定させ、10〜8か月前に高校化学の穴を埋めながら要点書を1周、8〜5か月前に分野ごとの教科書を通し、5〜3か月前に演習書、3か月前から過去問という順序です。4分野すべてとなるとこの各段階が分野の数だけ必要になるため、早めに始めるか優先順位をつけてください。
ほかの科目の参考書ルート
理系の編入試験では、複数の科目を同時に進めることになります。化学と並行して数学が必要な大学、物理と選択になる大学も多いので、あわせて確認してください。




























